厚生労働省の働き方改革により、2019年4月1日からついに

㈰時間外労働の上限規制

㈪年休の強制付与

の2つの法制度が始まりました。

 

時間外労働の上限を法律で規制するというのは、約70年前(1947年)に制定された「労働基準法」において初めてと言っても良いほどの大改革となります(※細かな改正は過去何度かありました)。

 

時間外労働の上限規制による影響|労働者の労働環境はこう変わる

 

2つの法制度開始〜まずは大企業から適用

これまでは法律上は残業時間の上限がなく、行政指導のみでした。政府から各企業の労働環境を調査した上で、「あなたの会社は従業員の残業が多過ぎるようなので改善してください。」といった通知が企業にいくのみだったのです。

 

そして改善しなかったからといって特にコレと言った罰則があるわけでもありません。そんな状況ゆえに、具体的な改善策を図ろうとしない企業も多かったのです。従業員に過度な労働を強いる‘ブラック企業’と呼ばれる存在も近年ますます目立つようになりました。

 

そうした現状をなんとかしなければならないと、やっと今回法律で規制するに至ったわけです。ただし㈰に関しては2019年現時点で対象となっているのは大企業のみです。中小企業に関してはまだ1年間の調整猶予があり、適用開始は2020年4月1日からとなっています。

 

ちなみに大企業・中小企業の区別は明確にはどうなっているのか分からないという方もいらっしゃるかと思います。

 

企業はその規模によって「大企業」「中小企業」という呼び方をしますが、法律では大企業は明確に定義されておらず、中小企業のみが中小企業基本法(昭和38年7月20日法律第154号)によって定義されています。

 

ゆえに大企業というものは中小企業の反対解釈として見なすのが一般的です。

 

下記「[業界別]中小企業と見なされる企業の条件」に合致しない企業は全て大企業と見なされることになり、今回の働き方改革による2つの制度「時間外労働の上限規制」「年休の強制付与」が2019年現時点ですでに適用されることになります。

 

[業界別]中小企業と見なされる企業の条件

「資本金または出資総額」、または「常時使用する労働者数」のどちらかで中小企業の上限基準となる数値を下回っていれば、その企業は中小企業とみなされ、「時間外労働の上限規制」「年休の強制付与」適用開始は2020年4月1日からとなります。逆にその数値を両方とも超えている場合には大企業と見なされ、2019年4月1日からの適用となります。なお、事業場単位ではなく企業単位で判断されます。
各業種において下記に当てはまる企業はすべて中小企業です。

 

・小売業・・・資本金または出資総額が5,000万円以下、又は常時使用する労働者数が50人以下
・サービス業・・・資本金または出資総額が5,000万円以下、又は常時使用する労働者数が100人以下
・卸売業・・・資本金または出資総額が1億円以下、又は常時使用する労働者数が100人以下
・その他(製造業、建設業、運輸業)・・・資本金または出資総額が3億円以下、又は常時使用する労働者数が300人以下

【結論】今後は1日平均1.5時間を超える時間外労働からすでに違法の可能性あり!

 

2019年4月1日より(中小企業は2020年4月1日より)、時間外労働の上限は原則として

[原則 ⇒ 月45時間・年360時間]

となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなりました。なお、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合に限り、例外として下記にまで上限を広げることができます。ただし、臨時的な特別の事情を適用したい場合にはあらかじめ労使の合意を証明する書面を労働基準監督署に提出しておく必要があります(=特別条項付き36協定)それをしていなかった場合には、上記の通常原則である「月45時間・年360時間」という上限が適用されます。

 

[▽例外] 1、時間外労働が年720時間以内
2、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
3、時間外労働と休日労働の合計について、2〜6か月平均80時間以内
4、時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度

これに違反した場合には、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。

今回の時間外労働の上限規制というものは大雑把で複数の条件が混合しており、一体どこからが違法なのかいまいち明確には分からないという方もいらっしゃるかと思います。その点に関しては、一般的な週5日勤務の企業を例にとると下記結論に至ります。

 

 

【結論】⇒労働者が1日平均1.5時間以上(繁忙期などで2.0時間超え)の時間外労働をしている場合、法律に違反する可能性が出てくる。

 

 

【根拠】⇒労働者が1日平均1.5時間の時間外労働をした場合、月あたりの時間外労働は30時間となり、これが1年間続くと「年360時間」という上限原則に抵触することになります。また、業種によっては繁忙期があり一定期間はどうしても忙しくなりますが、その限られた時期においても1日平均2時間超えの時間外労働をしてしまうと月の時間外労働が40時間超えとなり、「月45時間」という上限原則にいよいよ迫ってきます。ゆえに上記結論に至るというわけです。

 

 

また、例外に関しましては原則の2倍前後の値が設定されているわけですが、企業が最も警戒するのは

[3、時間外労働と休日労働の合計について、2〜6か月平均80時間以内]

だと思われます。

 

業種によっては繁忙期が数か月から半年程度の長い期間に及ぶかと思いますが、上記3の条件を満たすには、例えば繁忙期に入った1か月目に労働者の時間外労働と休日労働の合計がもし月90時間にも及んだ場合、2か月目は月70時間以下に抑えなければならなくなります。

 

3か月目には1か月目と2か月目の時間外労働の平均値を考慮した上でまた上限を決めなければなりません。4か月目以降も同様です。

 

要するに、過度な時間外労働と休日労働を強いた次の月には必ず(企業にとっての)しわ寄せが来るということです。労働者の立場からするとまさに命を救ってくれる法律と言えます。

 

2000年以降過労死のニュースが世間を騒がすようになりましたが、残業時間月80時間というのが現在‘過労死ライン’と言われていますからね。

 

労働者を過労死から救うことを目的とした時、今回の時間外労働の上限規制はまさにギリギリのラインとなっており、企業にとっても労働者にとっても最適な労働時間の線引きをしているものと筆者は考えます。

 

3、「年休の強制付与」がもたらす効果

 

2019年4月より、年次有給休暇の取得義務を企業が負うこととなりました。以前は労働者が自ら申し出なければ年休を取得することはできませんでした。

 

それゆえに職場への気兼ね・配慮などが邪魔して職場によってはなかなか年休の希望申し出がしにくい状況がありました。そしてしっかり希望を申し出てもそれが通らないことも‥。

 

しかし、これからは使用者(上役)が労働者の希望を聴き、希望を踏まえた上で時季を指定。法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に対して、最低でも年5日の年次有給休暇を取得しなければならない義務を企業が負うこととなったのです。もちろん、事情により労働者の希望通りの日にちにできないことはあるでしょう。

 

しかし、年休の取得自体は今後一切問題はなくなります。何せ企業側から「休んでください」と頼まれるのですからね。お給与出してお休みを頼まれちゃ誰も断れません笑)。職場によってはこうした年次有給休暇というものは有って無いようなものという扱いであることも多かったため、これでようやくすべての企業で年次有給休暇が形あるものとなり、労働者の権利は法律で守られることとなりました。

 

 

4、今後企業が打ってくる対策〜契約内容に注意!

 

上記結論に書きました通り、企業は今後、労働者の1日平均1.5時間以上(繁忙期などでも2.0時間超え)の時間外労働から法律に違反する可能性が出てきます。今回の時間外労働の上限規制に関しては、やはりその上限ギリギリのところで社内の労働環境を作っていく企業も多い事でしょう。

 

月平均80時間以上の時間外労働を普通に毎月従業員に強いてきたような‘ブラック企業’という存在も今後は労働環境を改めざるを得ません。何せ違反すれば「6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金」ですからね。

 

罰金はもちろん痛いでしょうが、使用者の明らかなモラル・配慮の欠如が伺われる場合には半年の懲役を受ける可能性もあります。
「絶対に法律違反しない」
「会社の利益も最大限上げたい」
使用者は法律に従い、これからはその2つの意識を持つことで会社と労働者を守っていかなければなりません。

 

 

しかし、ここで先日Yahoo!ニュースで紹介されていた労働問題をご紹介致します。このケースは美容室をチェーン展開する企業と美容師(個人事業主)との外部委託契約のケースです。

 

こちらのケースでは、形としては働く場所も勤務時間も仕事の段取りなども全て勤務先の会社に決められている「労働者」なのに、契約上は「個人事業主」となっているために労働基準法が適用されず、残業しても残業代はつかず、休憩なしの1日12時間という長時間労働を強いられていたというものです。

 

ニュースでは「名ばかり事業主」という触れ込みで問題になっていました。こうしたケースの場合、例え行政に相談などしたとしても「あなたは企業の従業員ではないので労働基準法は適用されません。」と門前払いされるケースが多いと言います。

 

 

通常は雇用契約を結ぶ「使用者」と「労働者」という関係だからこそ労働者は法律によって守られるわけですが、こうしたケースに見られるように雇用契約ではなく、「個人事業主」として業務委託契約を結ぶなど、企業の問題のある雇い方が近年この美容業界のみならず、健康飲料や化粧品の訪問販売、宅配便などのトラックドライバー‥等、他にもさまざまな業界で増えてきているといいます。

 

企業に雇われる労働者としては、そうした憂き目を見ない為にどんな契約になっているのかをしっかりと注意しておかなければなりません。

 

最低限労働条件が明記された契約書には隅から隅まで目を通し、違法な内容・不当な内容が書かれていないか等しっかりと確認・納得した上で働くようにしましょう。